コメダホールディングスがついに上場!

シェアする

yjimage

ついに上場

東京証券取引所は去る5月26日、「コメダ珈琲店」などを運営するコメダホールディングス(以下、コメダHD)の上場を承認したと正式発表した。上場予定日は6月29日で、想定発行価格は1960円で株式時価総額は約858億円となり、同業ではドトール・日レスホールディングスの934億円に次ぐ規模となる。

コメダHDは2013年2月に、MBKパートナーズが2月にアドバンテッジパートナーズ(出資比率78%)、さらにサッポロホールディングス傘下のポッカサッポロフード&ビバレッジ(同12%)などから全株を取得し、買収総額は負債も含め約430億円規模の案件であり、今回はそのイグジットの一環となる。

主幹事は大和証券。公募はなく、売り出しのみで2670万株、全てMBKパートナーズのファンドであるMBKⅢ Limitedの売却のみ。オーバーアロットメント(以下、OA)は400万株。

本件はMBKパートナーズが買収時に巨額ののれん代を抱えたことから、会計基準は減損が発生しなければ償却の必要がない国際会計基準(IFRS)を採用しており、IFRSを採用する企業としては、すかいらーくに続く新規上場となる。

コメダ珈琲店は1968年1月に加藤太郎氏によって創業され、FC展開を中心に事業を拡大してきたが、2008年3月に、加藤氏の事業承継という形でアドバンテッジパートナーズが全体の78%を取得し、ほぼ同時期と思われるが、サッポロホールディングス傘下のポッカサッポロフード&ビバレッジ(同12%)が取得した。

そして、前述の通り、2013年2月にMBKパートナーズが負債込みで全株を430億円で取得となる。

ここで少し、アドバンテッジのリターンを検証してみたい。

アドバンテッジの取得価格詳細はわからないが、丁度同時期にコメダ株を取得したポッカサッポロ(当時ポッカ)の譲渡益などが開示されている。

特別利益の発生に関するお知らせ(http://www.sapporoholdings.jp/news_release/0000020108/index.html)

ポッカサッポロフード&ビバレッジは株式譲渡益として約34億円(帳簿価格5億5900万円)を計上するとのことなので、ポッカの譲渡価格は34億円 + 5.59億円 = 39.59億円。

この39.59億円が全体の12%なので、コメダの全体の株式時価総額は39.59 × (1 ÷ 0.12) = 330億円 になる。

結果として、買収総額430億円のうち、約100億円が負債と考えられる。

アドバンテッジはコメダの78%を取得していたので、
330億円 × 78% = 257.4億円 。

ポッカサッポロは取得価格の7.08倍で売却するので、同様にアドバンテッジの取得価格は、257.4億円 ÷ 7.08 = 36.4億円ということになる。

アドバンテッジのコメダ株の取得は2008年4月なので、約5年でのイグジットとなるが、5年で7倍はIRR48%となり、取得額にはレバレッジも効いているだろうから、リターンはおそらく50%を超える大成功のディールと言ってよいだろう。

そして今回はそのアドバンテッジからコメダ株を取得したMBKパートナーズのセカンダリーバイアウトの位置づけとなる。

右肩上がりの出店

コメダHDは、持株会社と連結子会社1社で構成されており、当該子会社である株式会社コメダにて「珈琲所 コメダ珈琲店」(682店)と「甘味喫茶 おかげ庵」(7店)の二つのブランドで運営されている。(2016年4月末)

以下は、その出店推移である。

12/2期は全部で435店から16年4月末で688店と253店増加しているが、直営店はわずかであり、ほとんどがFC店である。地盤の中京エリアはほとんど増加しておらず、東日本と西日本が増加しているのは興味深い。喫茶店の事業所数は1981年の154,630件をピークに一貫して減少しており、2014年は70,454件となっているが、(全日本コーヒー協会)消費地としてはまだまだ拡大出来るということなのだろう。

ビジネスモデルは典型的なフランチャイズ形式であり、本部の店舗開発部隊が、出店候補地から店舗設計を行い、主力であるコーヒー、パン類は自社工場で一括製造し店舗へ配送している。また極めて特徴的なのは、1か月1席1500円という定額制のロイヤリティであり、回転が良ければよいほど、FCオーナーへの実入りが良くなるシステムである。

驚異的な利益率の高さ

コメダHDは16/2期より国際会計基準(IFRS)としており、2014年3月1日をIFRS移行日とした15/2期のIFRSも開示している。

以下は、売上と営業利益の推移である。

2期連続増収増益であり、特質すべきはその30%を超える営業利益率の高さである。FC展開がメイン事業であり、その利益率が喫茶店の利益率とは比較にならないのは理解しているが、他の代表的な外食チェーン8社と比較してみた。

縦軸は前期の売上高営業利益率、横軸は前期売上高、円の大きさと表示金額は2016年6月1日終値の株式時価総額である。

今まで30%を超す利益率の外食は記憶になく、やはりコメダHDがダントツであり、次に利益率が高いのは壱番屋の10.4%、同業としてベンチマークされるドトール・日レスは7.6%だった。

但し、この中の発行体でIFRSを採用しているのは、コメダHDとすかいらーくの2社。IFRSではのれんの償却が行われないので、その分、利益額が上乗せされている。

IFRSの特徴とは?

内閣府令の連結財務諸表規則では、「金商法の規定により提出される連結財務諸表は(中略)一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする」とされている。

この基準に照らし合わせた結果、日本では、従来からの日本基準、米国で上場したり、米国預託証券(ADR)を発行している発行体が採用している米国基準、そして、2005年よりEU域内市場での統一基準として採用され、世界120カ国以上で採用されている国際財務報告基準(IFRS)が認められている。

要は日本の上場会社の連結財務諸表は3つの会計基準が混在していることになり、財務諸表を見る場合にはどの会計基準を適用しているかを確認する必要がある。

コメダHDの383億円ののれんは2013年にMBKパートナーズが旧コメダを買収した時に発生したものである。

今回コメダHDは新規上場企業として、すかいらーくに次ぐIFRS適用企業ということだが、既に各方面から指摘されている通り、IFRSは日本の会計基準とIFRSとではのれんの定義が異なり、日本の会計基準では償却していたのれんをIFRSでは償却しない。

日本の現行の会計基準では、M&Aにおける取得価額と買収した会社の貸借対照表の時価純資産との差額をのれんと認識し、買い手の貸借対照表に無形固定資産として資産計上し、計上されたのれんは、20年以内に均等償却される。

本来、IFRSでは取得価額と買収した会社の貸借対照表の時価純資産との差額、いわゆる日本の会計基準でいうのれんを、さらに顧客データ、ブランド価値、ソフトウェアなどの無形資産に配分し、最後に残った部分をのれんとするわけだが、これも、重要な会計方針の企業結合の注記を見る限りでは、前述の通り、日本基準帳簿価額の383億円全額をのれんとしている。

IFRS適用により、コメダHDは毎年20億円超の費用計上せずに済むわけだが、一方で当然ながら、IFRSでは毎年減損テストが義務づけられており。買収した会社の業績が悪化すれば、計上しているのれんを減損することになるため、多額の減損リスクを背負うことになる。全額ではないにしろ、コメダHDは最大383億円の減損の可能性があるわけだ。

ただ、仮にコメダHDが日本会計基準で毎年20億円ののれん償却を行っていたとしても、前期の営業利益は45億円であり営業利益率は20%を超え、業界1位の利益率であることは変わらない。

稀有な成功例

2013年にMBKパートナーズが旧コメダを買収するにあたり、銀行からシンジケートローンを調達して、現状、その借入金には財務コベナンツが付与されている。

現在の契約は2015年2月20日にリファイナンスされた三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行を貸付人とし、三菱東京UFJ銀行をエージェントとする金銭消費貸借契約であり、当初借入額は288億円。

その内訳は3つに分かれる。

1.トランシェA 117億円(TIBOR+0.25%)
2015年8月末日から6か月ごとに決められた金額を返済

2.トランシェB 171億円(TIBOR+0.5%)
2021年2月末日を期日一括返済

3. トランシェC10億円(TIBOR+0.5%)
返済の余力バッファーとして使用することを目的としたリボルビングローン

トランシェを分割返済、期日一括返済、リボルビングローンの3つに分けるスキームそのものはシンジケートローンとしては一般的なものと考えてよい。

財務コベナンツ

1.2015年2月期におけるレバレッジ・レシオ「有利子負債総額÷EBITDA(営業利益+各償却費)」が6.00以下に維持すること。2020年8月期の借入金完済時に3.5以下になるよう、半期毎にそれぞれ調整された基準値を下回ること

2.2015年2月期以降の各決算期末におけるのれん償却費及び、初年度を除いてリファイナンス関連費用控除前の営業損益又は当期損益のいずれか一つ又は複数が赤字となった場合、その翌期における営業損益及び当期損益の全部を黒字にすること。

一般的にはレバレッジ・レシオは5.0以下が適正だと言われており、本件でも当初、負担の大きい初年度の6.0を除けば、ほぼノーマルなコベナンツと考えられる。

コメダHDの今期業績予想は、売上237億円(前期比109.4%)、営業利益68億円(同104.7%)、当期純利益44億円(同108.3%)と開示されており、引き続き好調の見込みである。想定発行価格1960円を一株当たりの利益額101.99円で除すると予想PERは19.2倍となる。

業態で一番近いドトール・日レスの予想PERが15.8倍であり、IPOディスカウントがかかっていることを勘案すると、利益率の高さを十分評価されたと考えて良い。

また、MBKパートナーズの旧コメダの株式取得額が概ね330億円と考えられ、それが3年余りで2.6倍の858億円となれば、彼らのIRRは40%程度となり、セカンダリーバイアウトとしても、投資家からも極めて高い評価を得られるだろう。

コメダHDの事業は基本的にはロイヤリティ徴収、コーヒー・食材仕入一括販売、店舗工事請負等が売上に計上されているため、純粋な喫茶店の利益として見ることは難しいが、今回の上場は、異次元の高収益のFCビジネスを、喫茶店というレガシーな業態で実現させたところにビジネスとしての価値があり、ある意味驚きを隠せない。

代表取締役社長の臼井氏は、三和銀行出身であり、日本マクドナルド、セガの社長も務めた人物。それ以外のマネジメントも商業銀行、投資銀行出身者が名を連ねており、FCビジネスモデルを再定義して、効率化とブランディングによる集客強化が見事に噛み合った稀有な成功例と言えるだろう。今後のコメダHDに期待したい。

                                         現代ビジネスより引用

スポンサーリンク